To.カノンを奏でる君
 この時期になると、少し高値になる林檎。それを、一つ。

 祥多にはそれが一番嬉しい見舞い品だ。


「そうね。タータンは無類の林檎好きだものね」


 女子のように肩かけカバンの紐を握り絞め、直樹は微笑む。

 男子にしては柔らかくて穏やかな笑み。どことなく安心させてくれる直樹の笑みに、花音も微笑み返す。


「いつもありがと、直ちゃん」

「なぁに、急に」

「たまにはね、お礼を」

「礼を言われる事なんてしてないわよ。アタシ達親友でしょ?」

「……あはっ、そうだね」


 当たり前のように手を差し伸べ、支えてくれる直樹。花音にとって直樹もまた、祥多と違っても大切な存在。















「あぁ、花音ちゃん」


 ナースステーションを通り過ぎようとしたところで、由希に声をかけられた花音は振り返る。


「こんばんはー」

「こんばんは」

「いつもお疲れ様です」


 小さな子どもの相手をした後なのだろう。由希は乱れた髪を直していた。

 それから花音の隣にいる人物に目を向けて、優しく笑む。


「直樹ちゃん、久しぶりね」

「ご無沙汰してますー」


 可愛らしく会釈をし、直樹は笑みを返す。


「花音ちゃん。祥多君、ちょっと落ち込んでるの」

「え?」

「同じ病気の子が、亡くなって……」


 同じ病気の子。花音には覚えがあった。
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