To.カノンを奏でる君
(祥ちゃん……祥ちゃん……っ)


 花音は心の中で助けを請う。すると現れたのは、痛みを共に共有する男だった。


「うちの花音困らせないでくれる?」


 肘の辺りまで伸びた髪を下に一つに結わえ、白いシャツにジーンズという彼にしては珍しい格好をしていた。

 普段の彼は、女性の格好をしているのだ。


「な、直ちゃん……?」


 目を丸くし、入って来た男を見つめる。


「ど、どうしてここに?」

「卒業おめでとう。それを言いにね」

「直ちゃんの方はもう?」

「卒業して来ましたよ」

「言ってくれたらいいのに…」

「驚かせようと思って」

「相変わらずだね。直ちゃんも卒業おめでとう」

「ありがとう」


 穏やかな空気が流れ始めたのを慌てて阻止する早河。


「何だよ、お前! いきなり入って来て!」

「あぁ、花音のピアノが聴こえて来たんでつい」


 にこっと笑う直樹にほだされそうになった早河は首を振る。


「草薙! どういう関係なんだ?!」

「あ、直ちゃんは」


 親友だと紡ごうとした花音の口を塞ぎ、直樹が代わりに答えた。


「キスまでした仲だけど?」


 思いもよらない直樹の言葉に呆然とする早河。

 花音は慌てて直樹の手を剥ぎ取る。


「直ちゃんっ?!」

「本当の事だろ?」


 今日は何故か男モードの直樹に戸惑いながら弁解する花音。


「早河君、誤解しないでよ? 私と直ちゃんは親友なんだから」
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