To.カノンを奏でる君
「じゃあ、お前の好きな奴は」

「しつこい男は嫌われるぞ? つか、これから花音は俺と感動の再会シーンをしなきゃなんねーからとっとと失せろ?」


 花音は自分のものだと言わんばかりに後ろから花音を抱き締める直樹。

 早河は青筋を立てながらも、申し訳なさそうな花音に妥協した。


「今度電話する」

「うん。ごめんね」

「じゃあ」


 早河はそれ以降無言で音楽室を出て行った。

 早河が去った事を確認した直樹はやっと花音を解放する。


「なーおーちゃ~ん…?」


 明らかに怒りを秘めた花音の言葉に、直樹は怯んだ。


「さっきは助かったけどね、早河君は大切な友達なんだから!」


 頬を膨らませ、珍しく怒る花音に直樹はたじろぐ。


「ごーめーんー」

「もう」


 溜め息を吐き花音はコートを羽織った。

 卒業証書を抱え、拾った花びらをコートのポケットに入れる。


「それにしても何なの、アイツ。アタシのノンノンに気安く触るなんて許せないわ」


 男の格好をしていながら女口調の直樹。

 端から見れば不思議だろうなと思いながら、花音は音楽室を後にする。


「久し振りだね」


 並んで歩く直樹に、花音は三年前と変わらない笑みを向けた。懐かしい思いで直樹は微笑み返す。


「二年振りかしらね」

「うん。長いこと会ってない」

「ただいま。ノンノン」

「おかえり、直ちゃん」


 直樹はこの春から地元に帰省し、就職を決めた。花音はこの春から国立の音大生。
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