To.カノンを奏でる君
 三年前から大きく変わった二人の人生。


 直樹の就職先はフォトスタジオ。祥多の望んだ通り、プロのカメラマンに向かって進んでいる。

 花音は音大でピアノ専攻、ゆくゆくは音楽教師になろうと思っている。

 ピアニストになるという希望がない訳ではない。寧ろそうなれたらいいと思っている。

 しかし、ピアニストは狭き門。そう簡単になれるものではない。

 それが分かっているからこそ、花音は音楽教師を目指している。


「これから?」


 直樹は昔と変わらない身長の花音を見下ろす形で尋ねる。


「……うん。あ、お花買って行かなきゃ」

「そういえば、お花は? 卒業証書と一緒にもらえなかったの?」

「もらったよ。お母さんに預けた」

「……そう」


 ゆっくりゆっくり歩く町中。所々にぽつぽつと桜が咲いている。

 ひらひらと花音の頭に舞って来た花びらを、直樹は取って差し出した。

 にっこりと笑む直樹に笑み返し、花音はその花びらをコートのポケットの花びら達の仲間に入れた。


 それから花音は花屋に入る。

 色鮮やかな花々が並ぶ中、花音が選んだのは真っ白なかすみ草。

 花音が好きな花であり、落ち着きのある花。


「ご卒業ですか?」


 馴染みの店員が尋ねて来た。
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