To.カノンを奏でる君
「それにしても、ノンノンはまた一段と綺麗になったわ」

「えぇ? 全然」

「アタシが男だったらベタ惚れするわね」

「直ちゃん、戸籍上は男でしょ」

「ま、失礼ね! 心は乙女よ」

「はいはい」


 花音は笑いながら受け流した。

 直樹はほんの少し口を尖らせ、それから面白い事を思いついたように、にやりと笑う。


「あんなにモテてたら、タータンはヤキモチ妬きまくりかしら?」

「誰に?」

「ノンノンによ」

「みんな私を美化してるんだよ。私はみんなが思うほど良い人間じゃない。弱虫で臆病な人間なのに」

「……うん、飾らないノンノンが好きよ、アタシ」


 あまりに自分を卑下する花音にもの悲しさを覚えながら、直樹はとりあえず頷いた。


 目的地まであと10km。

 まだまだ遠い距離の為、途中までバスに乗車する。バスが来るまであと二十分。

 花音は溜め息を吐いてガードレールに凭れた。直樹はそんな花音の前に立つ。


 まっすぐに見つめられた花音は首を傾げる。


「この三年間、つらかったでしょう? ごめんね、傍にいてあげられなくて」

「………」

「アタシ、タータンの事から目を背けたかった。しんどかったの。タータンの事を思い出す事が」

「うん」

「ごめんね。いつの間にか、大好きなノンノンとも話す事がつらくて」

「うん」

「会うのが怖くて、忙しいのを理由に夏も冬も帰省しなかった。ごめんね。本当にごめんね」
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