To.カノンを奏でる君
溢れ出る涙を隠すように顔を覆った直樹。
その気持ちは、よく分かった。
(私もそうだった)
行かないと決めたのはあの日。しかしあの決断には、恐怖感が勝っていた。
行く事が怖かった──。
花音は花と証書を地に置き、直樹に手を伸ばした。
まっすぐに直樹を捕らえ、抱き締める。
「直ちゃん。責めなくていいの。私も同じなんだから。怖くて行けなかったんだよ」
相変わらず優しい花音の言葉に、直樹はまた救われた。
いつもそうだ。花音の言葉は直樹の自責の念から救い出してくれる。
それはとても温かく、優しく、心地好かった。
(タータンの事を一身に背負わせたっていうのに)
変わらない優しさに、視界が揺れる。
「……美香子ちゃんとも久し振りに会う事になるかな」
「葉山さんはずっと?」
「うん。毎日通ってるって、おばさんが」
「そう。入院してからの三年間、タータンについていたのはノンノンだったのに…」
「この三年間、ついていたのは美香子ちゃん」
「複雑だわ」
いつの間にか離れ、並んで立つ二人は淡々と言葉を交わす。
三年という月日は、それぞれの関係を引き裂いた。
三年前のあの日以来、もうあの頃のように笑い合う事はない。それぞれの間に距離が出来てしまった。
その関係が嫌で、花音は今日行く覚悟を決めた。
曖昧な皆との関係に終わらす為。そして新しい関係を築き上げる為に。
花音は、直樹は、あの場所へ向かった。
その気持ちは、よく分かった。
(私もそうだった)
行かないと決めたのはあの日。しかしあの決断には、恐怖感が勝っていた。
行く事が怖かった──。
花音は花と証書を地に置き、直樹に手を伸ばした。
まっすぐに直樹を捕らえ、抱き締める。
「直ちゃん。責めなくていいの。私も同じなんだから。怖くて行けなかったんだよ」
相変わらず優しい花音の言葉に、直樹はまた救われた。
いつもそうだ。花音の言葉は直樹の自責の念から救い出してくれる。
それはとても温かく、優しく、心地好かった。
(タータンの事を一身に背負わせたっていうのに)
変わらない優しさに、視界が揺れる。
「……美香子ちゃんとも久し振りに会う事になるかな」
「葉山さんはずっと?」
「うん。毎日通ってるって、おばさんが」
「そう。入院してからの三年間、タータンについていたのはノンノンだったのに…」
「この三年間、ついていたのは美香子ちゃん」
「複雑だわ」
いつの間にか離れ、並んで立つ二人は淡々と言葉を交わす。
三年という月日は、それぞれの関係を引き裂いた。
三年前のあの日以来、もうあの頃のように笑い合う事はない。それぞれの間に距離が出来てしまった。
その関係が嫌で、花音は今日行く覚悟を決めた。
曖昧な皆との関係に終わらす為。そして新しい関係を築き上げる為に。
花音は、直樹は、あの場所へ向かった。