To.カノンを奏でる君
第18楽章≫“今”を終わらせる為に。
それは例えるなら運命の扉。開けてしまえば、もう後戻りは出来ない。
扉の取っ手を掴んだまではいいが、横へずらす事は出来ずにいた。
ドクンドクンと速まる動悸に手が震える。
固唾を飲み、ぎゅっと取っ手を握る手に力を込めるが、そのままだ。
扉の前に立ったまま五分が経過しようとしている。
硬直したまま動けないでいる花音を案じて、直樹は取っ手を掴む花音の手に自らの手を添えた。
驚いた花音が振り返るのを笑顔で受け止め、一緒に開けようと言った。花音は泣きそうに笑い、頷いた。
直樹の、せーのと言う小さなかけ声に合わせ、二人は扉を開けた。
開けてすぐに、すっかり大人びた美香子と目が合った。
花音と直樹の姿を認めた美香子は勢い良く立ち上がる。
驚いている事がよく分かるほどに目を開いている美香子に、花音は深々と頭を下げた。直樹も軽く会釈する。
「……来ないんじゃ、なかったの」
明らかに不機嫌な調子で、美香子は再び腰を下ろした。
あの頃と変わらないショートカットに懐かしく思う反面、落ち着きの出て来た様子に寂しく思う。
あの頃から大分時間が経過したのだという事を感じさせられ、花音はもの悲しそうな顔をした。
「ごめん。四月からはこの町を離れて一人暮らしになっちゃうから、最後にって思って」