To.カノンを奏でる君
美香子は花音を一瞥し、それから小さな声で座ったら、と言った。
その言葉に、直樹が二脚のパイプ椅子を立てる。
「あれから変わりは」
「無いわよ。ずーっとこうして眠ったまま」
三人の囲むベッドには、規則正しい寝息を立てた祥多の姿があった。
心なしか、少し大人びたような気がする。
三年前のあの日、祥多の手術は成功した。しかし、祥多の体は衰弱しており、手術中に一度は心臓も停止したのだと言う。
手術は成功し一命を取り止めた祥多だったが、心肺停止後の衝撃で意識が戻らない状態となってしまった。
あの日から三年間、祥多はひたすら眠り続けている。
「毎月毎月かすみ草贈って来て、どういうつもり?」
美香子が花音の抱くかすみ草を見つめながら問う。
花音はかすみ草を見、蔑むような目を向けている美香子と目を合わせた。
「かすみ草の花言葉、知ってる?」
「え?」
「清い心、切なる喜び」
花音は小さく笑った。かすみ草は、実は祥多が好きな花だ。
たまたま花音が買って来たかすみ草の花言葉を聞いて、どこか花音に似てると言っていた。
それが花音には嬉しかった。清い心はもちろんの事、祥多にとって花音が切なる喜びだと言われたような気がして、とても心地好かった。
そんな思い出の花を、花音は毎月贈った。
行かないと誓った自分の代わりに、少しでも慰めになってくれればと。
その言葉に、直樹が二脚のパイプ椅子を立てる。
「あれから変わりは」
「無いわよ。ずーっとこうして眠ったまま」
三人の囲むベッドには、規則正しい寝息を立てた祥多の姿があった。
心なしか、少し大人びたような気がする。
三年前のあの日、祥多の手術は成功した。しかし、祥多の体は衰弱しており、手術中に一度は心臓も停止したのだと言う。
手術は成功し一命を取り止めた祥多だったが、心肺停止後の衝撃で意識が戻らない状態となってしまった。
あの日から三年間、祥多はひたすら眠り続けている。
「毎月毎月かすみ草贈って来て、どういうつもり?」
美香子が花音の抱くかすみ草を見つめながら問う。
花音はかすみ草を見、蔑むような目を向けている美香子と目を合わせた。
「かすみ草の花言葉、知ってる?」
「え?」
「清い心、切なる喜び」
花音は小さく笑った。かすみ草は、実は祥多が好きな花だ。
たまたま花音が買って来たかすみ草の花言葉を聞いて、どこか花音に似てると言っていた。
それが花音には嬉しかった。清い心はもちろんの事、祥多にとって花音が切なる喜びだと言われたような気がして、とても心地好かった。
そんな思い出の花を、花音は毎月贈った。
行かないと誓った自分の代わりに、少しでも慰めになってくれればと。