To.カノンを奏でる君
 美香子は声を張り上げる。その目には、涙が浮かんでいた。


「祥多君を思って来ないと決めたなら、いっその事切り離せば良かったのに! これ見よがしにかすみ草なんて贈って、いい気になってたんでしょう? 祥多君が好きなのは花音ちゃんだって分かりきってるもんね!」


 思っている事全てをぶちまけて、美香子は肩で息をしていた。

 抑えきれなくなった涙がはらはらと零れ落ちる。


「ごめんね。三年間、苦しかったよね」


 枷が外れたように泣く美香子を痛々しく見つめ、花音は俯いた。


 毎月かすみ草を贈り続けたのは、一刻も早い祥多の目覚めを祈っての事だった。しかしそれは却って美香子を傷つけていた。

 そうとも知らず、花音は三年間かすみ草を贈り続けた。


 最低だと、花音は自己嫌悪に陥る。


「そんなつもりじゃなかったの。かすみ草には祥ちゃんとの思い出があったから…。ごめんね」


 何て言えば良いのか分からず、花音は口を閉ざした。


 今はただ、謝る事しか出来ない。


「お前だけがこの三年間苦しんで来たと思ってんの?」


 ふとした声に、花音は顔を上げた。


 いつも自分より大きな手で守ってくれる、優しい少年。彼はまた花音を優しく救い上げる。


「この三人それぞれが苦しんで来た。この三年間ずっと。そうだろ?」


 三年前より少し低くなっているが、凛とした落ち着きのある声が室内に響いた。


「俺達は互いに二年も会わなかった。会う事が怖かった。祥多の今の状態を嫌でも思い出してしまうから」
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