To.カノンを奏でる君
「ずっと花音の幸せばかりを願って来た。花音が幸せならそれでいい、そう思って来た」


 直樹は遠い目をして呟くように言う。


「今の祥多じゃ花音を幸せにしてやれない。だから、目覚める兆しが見えないなら俺が花音を幸せにする」

「花園君、やっぱり花音ちゃんの事…」

「“好き”で終わらせられるほど簡単なもんじゃない。言っただろ、この感情に名前なんか要らないって」

「難しい事言わないでよ、理解に苦しむじゃない」

「とにかく。そう決めて来たんだよ、今日は」


 直樹はポイッと缶専用のゴミ箱に缶を投げ入れた。

 缶は見事に中に入る。


 戸惑いながら自分を見つめている美香子に、直樹は尋ねる。


「葉山はどうすんの、この先。ずっと祥多の面倒見んの?」

「私は……」

「待つ事が悪いとは言わない。けど、一生目を覚まさない可能性もあるって言われてる。もし祥多が一生眠り続けたらどうすんの」

「っ……」

「もっと先を見据えろよ。花音が祥多から離れた理由。あれはお前にも当てはまるだろ、葉山。ずっと傍についてたって祥多は喜ばない」

「分かってるわよっ」

「お前にも幸せになる権利がある。分かってるだろ?」


 珍しく美香子を案じて優しい言葉をかける直樹に、美香子は驚きを隠せなかった。

 あれほどまでに嫌われていたというのに、今では美香子の行く先を案じてくれるまでになるとは思いもよらなかった。
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