To.カノンを奏でる君
第19楽章≫“俺”と“アタシ”。
「デートしない?」
そう言われた時、正直驚きを隠せず後退った。
理由は二つある。
一つは、彼が一見で男だと分かる服装をしている事。見事に白のシャツが似合っていた。
二つ目は、低い声で男らしく話しかけて来た事。
この二つを重ね合わせた上に、デートしないかと来た。
これには花音もびっくりだ。まさか直樹から、男装で低い声でデートなどという言葉が出て来るとは夢にも思わなかった。
これが俗に言う晴天の霹靂と言うのだと、妙に客観的に見ていた。
「聞いてんの? 花音」
門の所で硬直したまま立っていた花音は、顔を覗き込んで来る直樹に驚き、我に返った。
「ど、どうしたの、直ちゃん。頭でも打った?」
「や、めちゃくちゃ元気だけど」
「じゃあ何で急に来てデートしないか、なんて…」
「理由が必要なの?」
「だから、そうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」
「……何かいつもの直ちゃんじゃないから困る」
ストレートに困ると言った花音に、直樹は目を丸くした。
確かに今日はいつもの“直ちゃん”じゃない。花園直樹という一人の男として、草薙花音という一人の女に会いに来た。
本当に困っている花音の顔を見て堪えきれなくなったのか、吹き出した直樹はそのままお腹を抱えて大笑いした。
突拍子もなく突然笑い出した直樹に、花音は更に困った顔をする。