To.カノンを奏でる君
「俺、俺! 彼女と見に来いっつった!」

「……山重さん」

「あっはっは! まさか本当に連れて来るとはなぁ」

「彼女じゃないですって前にも言ったじゃないですか」

「まぁいいじゃねぇか」


 お気楽な山重に疲れた直樹は大きな溜め息を吐いた。それから花音を振り返る。


「ごめんね、ノンノン。この方が山重友克さん」

「よろしく」


 スッと差し出された右手を見て、花音は左手を出して握手を交わした。


「草薙花音です」

「その写真はな、アフリカの貧しい村で撮った写真なんだ。珍しい一枚なんだよ。普通、そこに住む人達は無表情でね」

「そうなんですか…」

「俺も気に入ってる写真だよ」


 山重は、我が子を慈しむように写真を見つめた。

 そんな姿に、尚更直樹は惚れ込んだのだろうと花音は思う。


「ほんじゃ、最後までじっくり見て行きな」


 山重は後ろ手にひらひらと手を振りながら、去って行った。直樹はそんな山重の後ろ姿を眩しそうに見つめていた。

 それを横目に見ていた花音は小さく笑い、くいくいと袖を引いた。


「優しそうな人だね」

「……そうかしら」

「分かってるクセに」

「ふふ」


 笑いながら先を行く直樹の後に続き、花音も歩き出した。


「ねぇ、直ちゃん」

「ん?」

「どうして人の写真ばかりなの?」


 展示されている写真全てが人の写真だと気づいた花音は、食い入るように写真を見ていた直樹に問いかけた。
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