To.カノンを奏でる君
 すると直樹は突然、誇らしげに笑った。


「一生を懸けて世界中の人々の喜怒哀楽の瞬間を刻む事。それが山重さんの目標なのよ」

「瞬間を、刻む?」

「ええ。人の人生はいつ終わりを告げるか分からない。だから、誰かと関わった日々が、誰かの心に残るように」

「………?」

「つまり、この人はこの場所にいたんだっていう証を残す為」

「んー。例えば、私が消えてしまっても、私は確かに存在したんだっていう証に?」

「まあ、簡単に言えば」

「難しいね」

「そうね。でも、それが山重さんの存在意義なんですって」


 直樹はそう言って、再び写真と向き合った。花音には難しい奥深さを、直樹はしっかりと掴んでいる。

 真剣に写真と向き合う直樹が、花音には眩しく映った。



 一枚一枚を目に焼きつけ、出入口に差しかかると突然、直樹が立ち止まった。

 一向に進む気配のない直樹に、花音は痺れを切らして声をかけた。


「直ちゃん?」

「よーやく分かったわ。山重さんが最後までじっくり見て行けって言った理由」

「へ?」

「これよ」


 直樹は花音にも見えるように一歩退いた。

 花音は疑問を抱えたまま孤立した一枚の写真を覗き込む。


 それは、見覚えのある光景。


 どうしてこんな写真がと、うろたえていると、直樹がそっと写真の下のパネルを指し示した。


『特別ゲスト・花園直樹作品』


 それを見て納得した花音は、くるりと振り返った。
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