To.カノンを奏でる君
 体つきが、男である自分と比較して柔らかい。そして何やらいい匂いがする。

 シャンプーの匂いだろうか。


(あぁ、いつの間にかそんな事にまで気にかけるようになったんだな)


 中一の時はこんなに変わる兆しなど見せなかったのに、と祥多は寂しくなり、花音の背中に回す腕に力を入れた。

 いつまでもこの腕に収めておきたい。そんな事を言ったら、花音はどんな表情をするだろうか。

 嬉しそうに笑うのか、はたまた悲しそうにするのか、怒るのか。これだけは祥多にも予測不能だ。


「ゴホン。んん、んー」


 あからさまな咳払いに、祥多は扉に目を向ける。

 直樹が片目を閉じ、呆れ顔で立っていた。


「直……」


 祥多は目を丸くし、花音を放す。それから花音は祥多から離れた。


「イチャイチャラブラブは構わないけど、扉は閉めて下さいな」


 直樹は右手に白いビニール袋を持っていた。


「お久しぶりねー。はいこれ、林檎。で、ノンノンにオレンジ、タータンにアップルね」


 ゴトンコトンコトンと手際良く買って来た物を配給する直樹。


「ジュース買って来てくれたの? ありがとう」

「いえいえ」

「林檎もジュースもありがとな」

「どういたしまして」


 花音はパイプ椅子を二つ立て、一つを直樹に譲る。いやもちろん、その為に二つ立てたのだ。
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