To.カノンを奏でる君
第20楽章≫流れる涙、零れる言葉、溢れる想い。
大通りに出た二人はタクシーを拾い、乗り込んだ。直樹が幸場病院までと運転手に告げる。
その際、花音は窓の外をぼーっと見つめていた。
窓に映る花音の表情が何故か不安そうで、直樹は声をかける。
「どうしたの、不安そうな顔して…。タータン、目覚めたんでしょう? 嬉しくないの?」
「嬉しいよ。でも、美香子ちゃんの声が……嬉しそうじゃなかった。動揺してた」
「動揺?」
「何かあったんじゃないかって、凄く嫌な予感がして」
「ノンノン…」
「素直に喜べないの」
花音はそう言うと、静かに目を閉じた。
幸場病院に着くまでの四十分間を、二人は無言のままやり過ごした。
それから幸場病院に着いた二人はすぐさま祥多の病室に向かった。
不安が大きいのか、やや遅れ気味な花音の手を引き、直樹は早足で歩いた。
引きずられる形で連れられた花音は、顔を歪め、祥多の病室の前まで来ても入れずにいた。
「ノンノン」
「私帰る」
「ちょちょちょ、待って! 待って!!」
くるりと方向転換した花音を慌てて直樹が引き止める。
「逃げない逃げない!」
「だって、」
「予感でしょ! ほらほら行くわよ! いつものノンノンはどうしたの?」
「はぁ……」
「さ、開けるわよ! さん、に、いち!」
ガラッと扉を開けた直樹は突っ立っている花音の背を押して中に入った。