To.カノンを奏でる君
第21楽章≫母の教え。
逃げ出してしまった次の日の朝。
目覚めた花音はゆっくりと体を起こし、壁かけの青い時計に目をやった。
午前6時40分。
別段早く起きなければならない理由はないというのに、早い起床。
昨日は一日にいろいろな事があって気疲れしていた花音には、少なからずつらい起床時間だ。
床に無造作に脱ぎ散らかされた洋服を見て、昨日の一件は夢ではなかったのだと再確認した。
追って来た直樹の手を振り払い、無我夢中で帰って来た花音は部屋に籠り、着替えてすぐベッドに入り込んだ。
声を押し殺して泣き、いつの間にか眠りに就いていた。
だるい体に鞭を打って立ち上がり、隅に配置されている小学生の頃から使っている学習机に向かった。
そうして置き鏡を覗き込む。
案の定、瞼は腫れ、赤くなっていた。
花音は小さな溜め息を吐き、ベッドに戻って腰を下ろした。
どのくらい経った頃だろうか、我に返り頭を振った。
このままぼーっとしていては、一日二日、そうしていそうな気がした。
とにかく動いた方がいいと踏んだ花音は、重い腰を上げ、クローゼットを開けた。てきぱきと着替えを済ませ、下へ降りる。
誰もいないリビングは、カーテンによって朝日が遮られ、薄暗かった。
まずは珈琲をと、珈琲メーカーをセットする。
たまには朝食を作ろうかと、椅子にかかっているオレンジ色のエプロンを着用した。
母の為に、高校二年の時の家庭科実習で作ったものだったりする。