To.カノンを奏でる君
 滅多に使わないミシンを使ったエプロン作製は大変なもので、ところどころ歪になっている。

 それを愛用してくれている母の姿を見るのが、少し嬉しかったりする。


(さて、何を作ろうか)


 冷蔵庫を開け、真っ先に目に飛び込んで来た長ねぎと対峙した結果、長ねぎの味噌汁と目玉焼きに決定した。


 手際良く味噌汁を作り終え、目玉焼きを作ろうとしたところに、母がリビングに入って来た。

 眠そうな目を擦りながら下りて来た母は、一気に眠気が冷めたかのように目を見開いた。

 そのまま、まじまじと台所に立つ花音を見つめながらテーブルに着く。


「……何」


 母の物珍しそうな視線に苛立ちながら尋ねた。

 母は真顔で頬杖ついて変なところで不器用な一人娘を見つめた。


「貴女が朝食を作ってくれるなんて何年振り?」

「別にいいでしょ、そんな事。早く目が覚めたから作ってみただけ」

「貴女ももう休みに入ったからゆっくり起きて来るじゃない。だからいつものように早く作らなくていいかと思ってたんだけど」

「煩いな」


 母と会話を交わすと、つい素直になれず憎まれ口を利いてしまう。

 花音は口を尖らせながら、続きに取りかかった。


「花音」


 三年前とは打って変わり、穏やかになった母の口調は優しかった。

 高校受験の事で花音を縛りつけた事に、少なからず罪悪感を感じたらしい。

 今では勉強の事をとやかく言う事はない。言わなくてもしっかりやるという事を、母は知ったのだろう。
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