To.カノンを奏でる君
「どうするの。祥多君は、貴女の事を覚えていないのよ?」

「どうするのって……お母さんには関係ないでしょ。大体、私が祥ちゃんと関わる事を良く思ってなかったじゃない。今更何よ」

「貴女達があまりにもひた向きで一生懸命だったから諦めたのよ。好きだから一緒にいたい、その気持ちは分かりますからね」


 想定外の告白に、花音は唖然としていた。まさか諦めていたとは思いもしなかった。

 この三年間、何も言わなかったのは祥多の元に通っていない事を知っていたからだと思っていた。

しかしそうではない事を、花音はたった今理解した。


「貴女を知らない祥多君を相手に、貴女はどう出るの? まだ好きなんでしょう?」


 冷やかしでもなく真剣に尋ねて来る母に、花音は何も言えずに押し黙った。


「花音」

「……分かんないよ」


 消え入りそうな声で花音は呟く。


「いきなり記憶喪失だなんて。どうしたらいいか分かんないじゃん!」


 目覚めたら、告白する事が出来て幸せになれると思っていた。だからこそ、祥多の記憶喪失には泣かされた。

 これでは初めからやり直し。リセットされた状態だ。

 そんな祥多に対し、一からやり直す事を即時に決断する事は難しかった。


 三年間の空白、そして花音の決心。

 目覚めなければ新しい恋を。そう決心したあの日、まさかこんな事になるなど思いもしなかったのだ。

 目覚めたら幸せに、目覚めなければ別々になるだけだと思い込んでいた。


 しかし今、祥多が目覚めても幸せにはほど遠い。
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