To.カノンを奏でる君
「どこか具合悪いの? それとも、下手な演奏だった? 私にしてはその、良かった方だと思うんだけどダメだったかなぁ。いつもは、あのね、もっとひどいの」
花音は一生懸命に言葉を探し、どうにか思っている事を口にした。
ひどく困っている花音を見ていると、何故か心が苦しくなった。
自分がそんな顔をさせているのだと思うと尚更心苦しく、痛みを帯びた。
「ごめん」
やっとの事で、口を開いた。
「良い演奏だった。何か懐かしかったし」
「本当?! 良かった!」
周りに人がいて、自分達にその視線が注がれている事にも気づかないように花音は声を上げて喜んだ。
何がそこまで嬉しかったのかは分からないが、花音の表情に笑みが戻った事で、祥多の心は軽くなった。
「俺にも一曲弾かせてくれ」
「うん」
花音は笑顔で頷いた。
祥多に肩を貸してやり、どうにかピアノの前に座らせた。
十数人が見守る中、祥多はそっと鍵盤に触れた。ドの音が室内に響く。
「祥ちゃん、リクエストしてもいい?」
「ん、」
「ショパンの夜想曲がいい」
「夜想曲?」
こんなの、と右手で軽く弾くと、祥多は思い出したという風に頷き、心穏やかに三年振りのピアノを奏で始めた。
まだ腕の筋力も全然戻っていない為、鍵盤を叩く力もどこか弱々しい。が、奏でるピアノの音は正しく、祥多の音色だった。
花音は微笑みながら、隣で演奏に耳を傾ける。
花音は一生懸命に言葉を探し、どうにか思っている事を口にした。
ひどく困っている花音を見ていると、何故か心が苦しくなった。
自分がそんな顔をさせているのだと思うと尚更心苦しく、痛みを帯びた。
「ごめん」
やっとの事で、口を開いた。
「良い演奏だった。何か懐かしかったし」
「本当?! 良かった!」
周りに人がいて、自分達にその視線が注がれている事にも気づかないように花音は声を上げて喜んだ。
何がそこまで嬉しかったのかは分からないが、花音の表情に笑みが戻った事で、祥多の心は軽くなった。
「俺にも一曲弾かせてくれ」
「うん」
花音は笑顔で頷いた。
祥多に肩を貸してやり、どうにかピアノの前に座らせた。
十数人が見守る中、祥多はそっと鍵盤に触れた。ドの音が室内に響く。
「祥ちゃん、リクエストしてもいい?」
「ん、」
「ショパンの夜想曲がいい」
「夜想曲?」
こんなの、と右手で軽く弾くと、祥多は思い出したという風に頷き、心穏やかに三年振りのピアノを奏で始めた。
まだ腕の筋力も全然戻っていない為、鍵盤を叩く力もどこか弱々しい。が、奏でるピアノの音は正しく、祥多の音色だった。
花音は微笑みながら、隣で演奏に耳を傾ける。