To.カノンを奏でる君
 直樹と美香子がすっとんきょうな声を上げた。


「え、何? あ、タータンとデート?」

「デートっていうより……お出かけ?」

「やだっ。言ってよね、そんな大事なこと!」

「大事なこと、かなぁ?」

「大事も大事、一大事よぅ! 赤飯炊かなきゃ!」

「何で赤飯? 全くもう。……二人も行かない? 桜見なんだけど」

「へっ? いやいや! 二人でのんびーり楽しーく行ってらっしゃい! ね、葉山さん」

「え? あぁ、うん、行ってらっしゃい!」


 二人に断られた花音はしょんぼりと気落ちするが……。


「行くぞ、花音」

「え? あっ……本当に行かない?」

「いえいえ、とんでもない!」

「気にしないで、行ってらっしゃい」


 満面の笑みを浮かべた直樹と美香子に見送られ、花音と祥多は歩き出した。

 とは言っても、直樹と美香子も一緒に連れて行こうとしている花音を、半ば強制的に祥多が腕を引っ張っている状態だ。


 そんな二人を見えなくなるまで見送った二人は、呆然と立ち尽くしていた。


「何、あの急展開」

「さあ……」

「私達の退院祝いの計画はどうなるわけ?」

「白紙?」

「ちょっと~。緻密に計画したじゃない、花音ちゃんと祥多君を良い雰囲気にする為の」

「まあいいじゃないの。うまくいってるんだったら。万々歳よ」

「そうだけど……」

「それより、いいの? 葉山さん」

「何が?」

「二人の邪魔をしなくて」
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