To.カノンを奏でる君
 こういう時、手を繋いだ方がいいのだろうか。いや、ここは大通り。大衆の面前でそんな恥ずかしい事は出来ない。

 という具合に、悩んでいる祥多の顔を、花音は見つめていた。


 視線を感じた祥多は、花音を見る。すると花音は微笑みながら言った。


「背。伸びたね、祥ちゃん」

「え?」

「前は私と全く同じくらいだったのに、今は10センチくらい違うんだよ? 眠ってても、成長は止まらないんだね。凄いなぁ」

「そうか?」

「そうだよ。大体、ずーっと眠ってたクセに、ピアノの音色は変わらないんだよ? すんごくムカつく!」


 口を尖らせ、悔しさを露にする花音。祥多は小さく笑った。

 そんな花音を心から愛しく思っていた。


「あーぁ。私はいつまで経っても祥ちゃんには追いつけないんだよねー」

「んな事ねぇよ」

「ううん、ある。最初は弱々しかったけど、今じゃ三年前とさほど変わんない弾き方するでしょ? 普通なら有り得ないよ。三年間のブランクを二週間で取り戻すなんて」

「…………」

「祥ちゃんみたいな人の事を言うんだろうなぁ。“天才”って」

「花音?」

「せっかく元気になったんだから、もっともっとピアノの勉強して、ピアニストになってね!」

「それが、俺の夢だったのか?」

「ううん、知らない。祥ちゃんは夢を話してくれなかった。でも、ピアノを弾く時が一番楽しそうで輝いてたの。だから、ピアニストを目指したかったんだろうなって勝手に思ってただけ」
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