To.カノンを奏でる君
 確かに、ピアノを弾いている時間はとても幸せな時間だ。

 花音達と過ごす時間の方が大切だが、それと等しいくらいに、ピアノを弾いている時間も大切だった。


(ピアニスト……)


 そうだ、自分には歩んでいかなければならない未来がある。

 自分は三年間眠り続け、高校も通っていないとなると、これから通ったりしなければならない。

 未来を見据えて歩いて行く事を考えなければならない。


「祥ちゃん!」

「! あ、何だ?」

「もう。さっきから呼んでるのに」

「悪ィ。気づかなかった」

「……何考えてたか、当ててあげようか」

「ん?」

「この先の事、考えてたんでしょ?」

「……ああ」

「焦らないでいいんだよ。遅くなんてないから。ね?」


 にっこりと笑って、一足先に桜木公園に入って行く。そしてすぐに、桜が二人を出迎えた。


「うわぁー! きれ~!」


 広く大きな公園とは言え、遊具は滑り台にジャングルジム、ブランコに砂場だけで、主役は桜の木々だ。

 七十本近くの桜の木が植えられている。


 平日の午前中だからか、人はあまり多くはない。


「満開じゃないのにすごーい! きれーい!」


 上を見ながらくるくると回る花音を心配しながらも、祥多はその気持ちも分からなくはないなと桜を見つめた。

 何故か切なくて、儚い気持ちになる。愛しいと思う花音と見ているのに、何故、こんなにも胸が苦しいのだろう。

 祥多はそっと、胸に手を当てた。
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