To.カノンを奏でる君
 トクントクンと規則正しい鼓動が、手のひらを伝わって感じ取る。

 記憶がなくても、それはとても大きな感動だった。自分の足で歩いて、外に出て、外の空気を感じている。

 何故だか分からないけれども、ひどく感動していた。


「祥ちゃん! 凄いね~!」


 少し先の方ではしゃぐ花音に、祥多は笑みを零す。それから花音に近寄って、同じく桜を見上げた。


「本当に凄いな」

「私、今すっごい幸せ」

「ん?」

「ずっと、一緒に桜見に行こうねって約束してたのに叶わなくて、諦めてたから。だから、今こうして祥ちゃんと桜見に来てる事が凄く嬉しいの」


 心から笑っている花音の傍で、祥多は目頭が熱くなるのを感じた。

 こんなにも、彼女が自分を想っていてくれていたんだと思うと、祥多は無性に泣きたくなった。


 ありがとうだけでは少なすぎる。この気持ちに見合う感謝の言葉を、祥多は懸命に探していた。

 どう言葉に表せば良いのか、分からなかった。


「花音」

「んー」

「感謝してる。ありがとうだけじゃ足りねぇくらい、お前に感謝してる」

「なぁに、急に改まって」

「最初は、何だこの女って思った。俺にとって一番大切な人なんだって周りから言われても、納得いかなかった」

「…………」

「でも、お前と一緒にいると本当に温かくて楽しくて。これが幸せっていうやつなんだなって思った」


 花音は桜を見上げたまま、祥多の話に耳を傾ける。
< 254 / 346 >

この作品をシェア

pagetop