To.カノンを奏でる君
「周りの言う通りだって思ったよ。俺、本当にお前の事……」

「やめて!!」


 突然、花音が大声で祥多の言葉を制した。祥多は唖然として花音を見つめる。


 花音は俯き、顔を覆って肩を震わせている。


「やめて……今は聞けない、」

「花音?」

「約束撤回してくれなきゃ…、そんなの聞けないよ」

「約束?」

「祥ちゃんと私は幼なじみ。それだけでしょ?」

「お前……」

「あの約束を、私は苦しい思いして守って来たの。それを簡単に破らないで。お願い」

「―──悪かったな」


 祥多は俯き、歩き出した。


 花音は溢れ出る涙を懸命に拭う。


 あの約束は、二人にとって大切な約束だった。

 苦しい事ばかりの約束だったが、約束し続けたこの六年間は簡単に壊す事は出来ない。


「ふ……うぇぇっ……っく」


 せっかくの桜見を悲しいものにしたくなくて、花音は嗚咽が漏れる口を懸命に押さえた。


 笑え、笑えと暗示をかける。


 祥多を傷つけた。ただでさえ何も分からずに不安な毎日を過ごしているというのに、分からない約束を持ち出してしまった。

 悪かったなと言ったあの口調に怒りが見えたのが、花音には痛かった。


 気づけば祥多は大分先を歩いていた。花音は涙を拭いながら追いかける。


「祥ちゃん、待って」


 後方から聞こえて来る花音の声に、祥多は足を止めた。

 考えていた事全て、頭の中から追い出す。


「勝手な事言ってごめんなさい、」

「いや。俺も急だったし。ごめん」
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