To.カノンを奏でる君
 冗談のつもりが、本気で返されて祥多は戸惑った。

 早河に対しての嫉妬からの言葉を口にした事を悔やむ。


「悪かったよ」

「……私も、ごめん」


 何故か双方ギクシャクしている。桜見どころではない状況だ。

 ずっとこう、良くなって悪くなっての繰り返し。


 祥多は言葉なく項垂れた。


 この状況をどうしたらいいのやら。すっかり困り果ててしまっていた。


「あっ」

「ん?」

「早河君に気を取られてジュース買うの忘れた!」

「今頃気づいたのかよ」

「え。祥ちゃん気づいてたの? 言ってよー!」

「いや、分かってると思ってたし」

「あぅ……」


 正しい祥多の言葉に、花音は落胆した。

 ただでさえ先ほどから失敗続きであるのに、これ以上失敗を重ねてどうするのだ。

 救いようがないと溜め息を吐いた。


「そう落ち込むなよ。ほら、飴やるから」

「どこから出して来たの」

「ポケットに入ってた」

「……食べられる代物?」

「と、思うぜ」


 さして問題がないという風に飴を差し出す祥多。


 花音はひくっと頬を引きつらせた。それから、その飴の名称を読み上げる。


「ドリアンキャンデー、だよ?」

「直樹がくれた」

「………。悪戯に悪戯で私に返すの?」

「俺は優しさを持ってお前にやるんだ。直樹の悪戯と違う」

「違わないよ! そんなの優しさじゃな~~~い!」


 泣きそうになりながら喚き、花音は怒ったように先を歩いていった。

 祥多は笑いながら、そんな花音を追いかける。


 これからどうすれば、彼女との距離を縮める事が出来るのだろう。

 そんな不安を抱えながら、祥多は優しく見守るように下を向く桜を見つめていた。





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