To.カノンを奏でる君
第25楽章≫擦れ違う風。
窓を開けた花音の姿を、直樹はしげしげと見つめていた。
机の上に置かれたポッキーを口にする。
今日の花音は珍しく、長い黒髪を一つに結わえていた。
部屋着も、部屋着にしては洒落ている。グレイのバルーントップにクロップトデニムパンツ。よそ行きの格好だ。
そんな直樹のファッションチェックを気にも止めず、花音は向かい側に腰を下ろす。
「どうしたの、今日は」
月曜日の朝11時に突然訪ねて来た直樹に、訪問の理由を問う。
直樹はアーモンドチョコレートに手を伸ばしながら答えた。
「用がなきゃ来ちゃいけないの?」
「そんな事言ってないよ。いきなりだったから、どうしたのって訊いてるの」
花音は小さく口を尖らせながら言い返す。
「昨日は気を利かせて二人きりにしてあげたんだから、報告くらい当たり前でしょー」
直樹はくるくると自分のまっすぐな髪を弄ぶ。
「気を利かせたって……私はみんなと行くつもりだったんだから」
「ノンノンはそのつもりでも、タータンは二人でって顔してたわ?」
尤もな言葉に、花音は何も言い返せない。
少し焦らしすぎたか、と直樹は遠回しに言う事をやめた。
「楽しかった?」
「うん、まあね」
「んんー? 楽しかったって顔してないわよ」
「そんな事ないよ」
「………。どこ行ったの?」
「桜木公園に行って、カフェでお茶して帰った」
「そんだけ?!」
「そんだけ」