To.カノンを奏でる君
 アクセサリー類は身につけてはならないと校則にある。

 しかし花音は、校則を破ってまで毎日そのペンダントをし続けていた。


 大切な物なのかと訊いた時、彼女は寂しそうに笑い、小さく頷いた。


 それ以来、そのペンダントの事を追及する事は出来なかった。しかし、今ならその話題に触れられる。早河はそう思った。

 そのペンダントの贈り主が誰なのか、早河は気づいてしまったのだ。


「その、ペンダントさ」

「ん…?」

「アイツからもらったもんなんだろ?」

「え――」

「時枝祥多っていう幼なじみから、もらったもんなんだろ?」


 早河の言葉を受け、彼女は目を瞠った。

 突然の質問にどう答えればいいのか分からずに戸惑う。


「草薙の好きな奴ってアイツだったんだな」


 早河のまっすぐな問いに、花音は思わず顔を逸らした。

 何故分かったのだろう。一言も、あるいは一動も、祥多を好きなのだという素振りはしていないはず。


 花音の胸が、早打つ。


 この場合、素直に答えた方が良いのだろうか。それとも、笑って誤魔化した方が良いのだろうか。

 あまり祥多とうまくいっていない今の花音には、堂々と是と答えられなかった。


「草薙。そうなんだろ?」


 悲しそうに聞いて来る早河に胸を痛め、花音は素直に答える決心をした。


 三年間も友達でいた彼には、こういう隠し事は悪いように思えた。

 全部話したところで、早河はからかったり笑ったりなどしないだろう。きっと真剣に聞いてくれる。
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