To.カノンを奏でる君
「いくら何でも有り得ない。捜したんだから」

「ごめんって。……ん? 捜してた? アタシを? 何で」

「さっき花音ちゃんを見かけたの」

「あぁそういえば、出かけるような格好だったわね」

「会ったの?!」

「ええ、一時間近く前までだけど。家に押しかけたの」

「……そう」


 美香子は普段の落ち着きを取り戻し、椅子に深く座り込んだ。

 何やら疲れたような顔をしている。


「どうしたの。何かあった?」

「あったも何も、大事件よ。花音ちゃんが見知らぬ男と楽しそーに歩いてたわ」

「見知らぬ男……ぁ、早河君じゃない?」

「早河君?」

「ノンノンの高校の友達。って言っても、あっちは片想い中だけど」

「えぇ、何それ。花音ちゃんに恋してる男友達? なぁんだ。心配して損したー」


 美香子はふぅっと大きな溜め息を吐いた。てっきり、心変わりしたのかと思ったのだ。


 そうこうしている間に、温かなココアとバター付きのハニーブレッドがやって来た。

 美香子はすぐさまココアに口をつける。


「それが、ただの男友達じゃなさそうなの」

「え?」

「ノンノンにとって、妙に特別な存在のようなのよね。その早河君は」

「……冗談でしょ」

「本気。何て言うか、ムカつくけどアタシと同等? 三年間ずっとノンノンの傍にいたみたいね」

「それってすっごいやばくない?」

「うーん。……うん」

「何でそんなに呑気に構えてんのよ?!」

「うぅーん。何て言うか、ね」


 直樹は変な汗をかきながら、美香子と向き合う。
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