To.カノンを奏でる君
 寧ろ、親近感を抱いていた。

 花音は完璧ではない。人としての道を反れてしまう事もあるのだ。そう思うと、妙に安心した。

 花音といて浮き彫りになっていた自分の醜さは、少しずつ薄れていく。


「そっか。花音ちゃんも頑張ってるのかぁ…」

「葉山さんはこれからどうするの?」

「んー、取り敢えずバイト。来年、美容の専門学校に行こうかと思って」

「そう、良かった。葉山さんも頑張ってるんじゃない」

「まぁね。負けてらんないわ」


 いつもの笑顔を取り戻した美香子に、直樹は微笑みかけた。


 二月の末に会った時とは違って生き生きした笑顔は、とても輝いていた。


「で? どうするの、アレ」

「アレ?」


 美香子が笑みを引っ込めて、真面目な顔を直樹に近づける。


「退院祝いのパーティーよ。昨日やろうって計画してたじゃない」

「あー、アレね。ノンノンとタータンの距離をグッと縮めようっていろいろ作戦立てたわよねー」

「なに過去形にしてるのよ! やんないわけ?」

「やー、もう必要なくない?」

「あるわよ! この春からどうせみんなバラバラになるんだから、その前に思い出たくさん作っときたいじゃない」

「はは、そういう事。そうねぇ…作戦は不要になったけど、やりましょうか。退院おめでとうパーティー」

「そう来なくっちゃ。そこにその早河君だっけ? 招待しましょ」
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