To.カノンを奏でる君
「え、本気?」

「ええ。どんな顔してるのか拝んでやろうじゃないの」

「普通よー?」

「どんな人なのか気になるの! 二人の雰囲気も気になるし。ね、花園君も気にならない?」

「そうねぇ」

「決まりね! いつにする?」

「早い内がいいと思うわ。そろそろノンノン、引っ越しの準備で忙しくなるはずだから」

「え? 引っ越しって、花音ちゃん、一人暮らしするの?」

「国立の音大でしょ、ここから通うのに一時間半かかるわよ」

「あぁ、そっか。そうだよね」

「今週中がいいんじゃない?」

「じゃあ…明後日は? 私、明後日なら空いてる」

「アタシも大丈夫だわ。ノンノンとタータンと早河君の都合次第ね」

「うん」


 例えば、二人を並んで座らせてピアノ弾かせて、花音の良いところや思い出を語って、頃合いを見て二人きりにする。

 例えば、初めから仕組んだ王様ゲームをしてラブな命令をする。

 ──などという作戦の数々は不要になってしまったが、取り敢えず退院祝いのパーティーは決行される。

 本当のところ、内心楽しみにしていた美香子は、改めて決行が決まった事に喜んでいた。


 ハニーブレッドをちぎりっては口に放り込み、満足そうに笑っていた。


「ところで葉山さん」

「ん?」

「花園君ってのやめない?」

「はい? 何、今更」

「今更なんだけど。アタシ、花園君って呼ばれるの好かないから、下の名前で呼んでくれない?」

「──っ、え?!」

「ダメかしら」

「だ、ダメ、じゃあないけどっ」
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