To.カノンを奏でる君
 直樹の隣を歩く美香子は溜め息を吐く。何と言うか、複雑な気分だ。

 直樹はすっかり早河を気に入っている様子。

 一体どうすれば良いのだろうか。

 確かに早河は申し分ない男だと思う。しかし、それでは祥多はどうなる…。


 美香子は、花音が好きな祥多が好きだったのだ。


「早河君は、花音ちゃんが好きなのよね」

「へ?!」


 何気ない美香子の言葉に、早河は大いに動揺した。


「やぁだ、バレバレよぅ」


 直樹はそんな早河を笑い飛ばす。


「……分かりますか」

「うん。告白は?」

「しました」

「そっか。その様子だと、祥多君の事情も知ってるみたいね」


 早河は体を強張らせる。


「花音ちゃんは、祥多君を選ぶのかな。それとも、早河君を選ぶのかな」

「……分からないわ、そんな事。きっと、今のノンノンも」

「私、やっぱり祥多君と花音ちゃんが結ばれて欲しい。あんなに苦しい思いをしてるのに、それを乗り越えられないなんて、そんなの嫌」

「葉山さん」

「ごめんね、早河君。貴方は凄く好い人だけど、ごめんね。私、貴方と花音ちゃんより、祥多君と花音ちゃんの方をずっと見て来たから──」


 美香子は申し訳なさそうに小さくなった。そんな美香子の頭を、直樹は優しく撫でる。


「思うのは勝手でしょ、葉山さん」

「でも」

「大丈夫よ。ね、早河君」

「あ、はい。草薙と時枝さんの絆の強さはいつも見せつけられてますから」


 早河はにっこりと笑う。
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