To.カノンを奏でる君
第28楽章≫止まらない変化、移りゆく気持ち。
祥多の退院祝いパーティーから数日後。
花音は早河から買い物に誘われ、賑わうショッピングモール内を歩いていた。
早河曰く、メトロノームを妹に壊されてしまったという事で、買い物はメトロノーム。
土曜日の為、いつもより人が多い。
「迷子になるなよー、草薙」
「んなっ。早河君こそ迷子にならないでね」
「あ、俺なるかもー。だから手繋ごーぜ」
「ヤダ」
冗談を言ってる早河を放置し、花音は一人先を歩く。
「あ、待てよ、草薙!」
「わざわざ休みの日に付き合ってあげてるんだから、さっさと買って帰るよ」
「え、マジ? この後映画とか行かねーの?」
「はいぃ? デートじゃないんだから」
溜め息を吐かれた早河は少しばかり泣きたくなった。
デートじゃないとはっきり断言された男の気持ち、きっと彼女は分かるまい。
「電子? 機械?」
ズラリと並んだ数々のメトロノームを前に、花音は早河を見上げる。
早河は顎に指を添え、考える仕草を見せた。
「迷ってんだよなー。前のは機械式じゃん? この際、電子式にすんのもありだよな」
「そうだねぇ。最近は電子式が多くなってるよね。メトロノームとチューナーが一つになってたりするし」
「ハイテクな時代だー。草薙は機械式だよな」
「うん」
「使えなくなったら、電子式にするか?」
「ううん、私はまた機械式にする」
「振り子のあの機械式でしか出せない音が良いんだよな?」
「うんっ」
「同感」
そう笑いながら、早河は黒の機械式メトロノームを手に取った。
「……前と同じ型に同じ色ですか」
「黒が好き。この型に慣れた」
「なるほど」