To.カノンを奏でる君
「いつまで会わないでいるつもり?!」


 突然の事に目を丸くする祥多に、花音は勢い良く詰め寄っては胸ぐらを掴みかかる。


「会うくらいしてくれたっていいでしょ?! 話したい事いっぱいあるのに……もう時間がないのに!」


 来週、花音は一人知らない土地へ向かうのだ。当分帰って来る事は出来ない。

 だからこそ、早く話をしたかった。お互いの考えを、気持ちを言い合いたかった。


 あの頃のように。


「何で会ってくれないの?! 何から逃げてるの?! そりゃあ私、たくさん祥ちゃんのコト傷つけたと思う。でも、向き合うくらいしてくれたっていいじゃない!」


 涙が零れそうなのを、花音は必死で堪えた。ここで泣いたら負けだと思った。


「ねぇ、祥ちゃん!」

「…るせぇよ。離せ」


 祥多は花音の手首を掴み、乱暴に振り払った。


 花音は呆然と祥多を見つめる。

 祥多からこんな風に乱暴に扱われたのは初めてだった。

 祥多はいつも、壊れ物を扱うように、花音に接していた。


「会いたくねぇのに何で会わなきゃなんねぇんだよ」

「なっ……」

「お前見てるとイライラすんだよ。嫌なんだよ、もう。これ以上俺に関わんな」

「────……」


 ナイフのように鋭く切れ味の良い言葉が花音の心を引き裂いた。

 花音は力が抜けたようにその場に座り込む。早く立ち上がってこの場から立ち去りたいと思うのに、思うように体が動かない。


「さっさと出て行けよ」


(分か……ってるよ)


 出て行きたい。出て行きたいのに、体に力が入らない。
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