To.カノンを奏でる君



 早河に丁重に帰された花音はベッドに凭れてぼーっとしていた。

 無心に机を見つめる。


(叶わない恋なのに、早河君、出逢えて良かったって言った)


 もちろん、花音も祥多に対して同じように思っている。例え叶わない恋だとしても、出逢えた事は最高の喜びだと。

 しかし花音には、祥多が別の誰かに恋をした時、応援してやれる自信は全くなかった。


 そこが、花音と早河の違い。


「強いなぁ、早河君」


 その強さを分けてもらいたいと思った。祥多を傷つけないだけの強さをが欲しい。

 膝に顔を埋めた時、携帯電話が震えた。夜はマナーモードにしてあるその携帯電話に手を伸ばし、開き見る。


「美香子ちゃん…?」


 美香子からの着信だった。花音は慌てて通話ボタンを押して耳に当てた。


『もしもし、美香子ちゃん?』

『うん。ごめんね、急に』

『大丈夫。どうかした?』

『ちょっと話したいなーと思って。少し出られるかな』

『うん、全然平気。どこで会おうか?』

『花音ちゃんちの近くのファミレスに今いるんだけど』

『了解。じゃ、そこに行くね』

『うん、待ってます』


 電話を切り、家を出た。

 自動車がなんとか通れるほどの狭い道を出ると、大通りに出る。

 その通りに、待ち合わせのファミリーレストランは建っている。小さな町の端の方にあるこのファミリーレストランは、ほどほどに繁盛している。
< 314 / 346 >

この作品をシェア

pagetop