To.カノンを奏でる君
早河に丁重に帰された花音はベッドに凭れてぼーっとしていた。
無心に机を見つめる。
(叶わない恋なのに、早河君、出逢えて良かったって言った)
もちろん、花音も祥多に対して同じように思っている。例え叶わない恋だとしても、出逢えた事は最高の喜びだと。
しかし花音には、祥多が別の誰かに恋をした時、応援してやれる自信は全くなかった。
そこが、花音と早河の違い。
「強いなぁ、早河君」
その強さを分けてもらいたいと思った。祥多を傷つけないだけの強さをが欲しい。
膝に顔を埋めた時、携帯電話が震えた。夜はマナーモードにしてあるその携帯電話に手を伸ばし、開き見る。
「美香子ちゃん…?」
美香子からの着信だった。花音は慌てて通話ボタンを押して耳に当てた。
『もしもし、美香子ちゃん?』
『うん。ごめんね、急に』
『大丈夫。どうかした?』
『ちょっと話したいなーと思って。少し出られるかな』
『うん、全然平気。どこで会おうか?』
『花音ちゃんちの近くのファミレスに今いるんだけど』
『了解。じゃ、そこに行くね』
『うん、待ってます』
電話を切り、家を出た。
自動車がなんとか通れるほどの狭い道を出ると、大通りに出る。
その通りに、待ち合わせのファミリーレストランは建っている。小さな町の端の方にあるこのファミリーレストランは、ほどほどに繁盛している。