To.カノンを奏でる君
 昔からの癖なのか、思っている事をはっきり話していた。

 祥多は考えを隠す事を諦めた。花音に追及されると敵わない。


「花音、俺に関わるのはもうよせ。俺はお前に何もしてやれない」

「……じゃあ、約束は撤回しないって言うの…?」

「ああ」

「っ、勝手な事ばかり言わないでよ! 確かに傷つきもしたし苦しみもした! でもそれは人間だったら当たり前の事でしょう?!」

「花音…」

「大体、祥ちゃんだってつらかったじゃない! 何で私の事ばっかり労るの?」

「今までずっと、お前は俺に縛られて来た。俺に振り回され続けて来た」

「勝手に決めないで! 私の事は私が決める!」


 花音は泣きそうになりながら祥多を睨みつけた。

 祥多は苦しげに顔を歪める。


「私は後悔なんてしてない。祥ちゃんの傍にいて、祥ちゃんと過ごして来た事を幸せに思ってる。どうして伝わらないの?」

「…………」

「伝わらない、んだね。祥ちゃん。どんな言葉も、信じてもらえないんだね」


 花音の言葉がグサリと突き刺さった。


(違う、そうじゃない)


「花音。俺は」

「聞きたくない。もういい」


 また傷つけた。本当に、傷つけるばかり。


(どうすればいい。俺はどうすればいい……)


 何も分からない。

 好きだと思う気持ちは本当で、傷つけたくないと思う気持ちも本当で。双方とも譲れない。

 何が最善なのか分からなくなった祥多は、全てを花音に委ねる事にした。一先ず、花音が第一に望む事をしようと。
< 326 / 346 >

この作品をシェア

pagetop