To.カノンを奏でる君
 この空白の三年間で置いてきぼりにされたような気がして、しょうがなかったのだ。


「祥ちゃん」


 いつになく真剣な、緊張したような花音の声に、つられてこちらまで緊張する。

 祥多は生唾を呑んだ。


「私、何にもしてあげられなかった」


 すぐに告白めいた言葉が出て来ると思い、身構えていた祥多は拍子抜けする。

 花音の口から零れたのは、告白には少しばかり遠い言葉だった。


「大事な手術の時だって傍にいてあげられなかった」


(違う。あれは、俺が無理やり学校に行けって言ったから)


 花音と直樹が付き添おうとしている事が分かった祥多は、学校に行ってくれと頼んだ。

 花音はそれに従ったまでだ。


「思い返せば、何にもしてあげられなかったなぁって後悔ばっかり」


(それはこっちの科白だ。何か一つでも、俺がお前にしてやれた事があったか?)


「私ただワガママ言ってるだけだったね」


(いつワガママなんて言ったんだよ。誠心誠意、俺を労ってくれたじゃねぇか)


 いつも笑顔で、疲れた顔一つ見せずに病室に通い、変な気を遣う事なく普通に接してくれた。

 それがどれだけ祥多を救ったか、彼女は知らないだろう。


「早河君が好きだって言ってくれても、つらい時傍にいてくれても、私の心の中にはずっと祥ちゃんがいた」


 大きく胸が高鳴った。動悸が速まり、血液が物凄いで全身を巡る。
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