To.カノンを奏でる君
最終楽章≫永遠の幸せ。
「寂しくなるわね」
三月末、駅前で別れを惜しみ合う五人。
直樹、美香子、祥多は旅立つ花音と早河を見送る。
「電車で二時間なんだから、会おうと思えば会えるよ」
にっこりと花音は笑う。
「そうだけどぉ…」
「今更何よ。県外に行ってた人が」
「うっ」
美香子に突っ込まれた直樹は、正論を前に押し黙る。
「花音ちゃん。これ、私と直樹君から。餞別代わりに」
美香子は花音に紙袋を渡す。礼を言いながら中を見ると、いろんな種類の紅茶が入っていた。それから、ティーカップ。
「わー! 紅茶セットだ!」
「それぞれの気分に合わせて飲んでね」
「うん! ありがとう、美香子ちゃん、直ちゃん」
嬉しそうに笑う花音に、美香子は微笑み、早河の方を向く。
「早河君には、これ」
美香子が差し出したのは、小さな紙袋。早河は驚きながらもそれを受け取る。
「いいんですか、俺まで」
「マグカップだから、大した事ない代物だけど」
「いやいや! ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げ、まだ嬉しそうな花音の隣で笑った。
直樹はそんな二人を可愛いなと眺めながら、見送りに来ても一切しゃべらない祥多を見遣る。
どこか不機嫌そうな表情をして向ける視線の先を追うと。
「あらあら」
花音の隣に当たり前のようにいる早河に向けられていた。どうやら単なる嫉妬らしい。
直樹は笑いながら祥多に言う。
「もうノンノンはタータンの彼女なんだから、そんな不安そうにしなくて大丈夫よ」
祥多は直樹に目を向ける。