To.カノンを奏でる君
「つらかったらすぐに電話しろ。いいか、抱え込むなよ」

「うん」

「……頑張れよ」

「ありがとう」


 泣きそうに微笑む花音の手を引き、祥多は自分の唇を花音の唇に押しつけた。数秒間のキス。

 花音は驚き、美香子は唖然。直樹は笑い、早河は呆れ顔。


「ちょ……祥ちゃん! やめてよ、外でキスなんて!!」


 真っ赤になりながら怒る花音の頭を撫で、祥多は楽しそうに笑っていた。

 直樹はにやりと含み笑いし、花音と祥多にこっそりと尋ねる。


「その様子だと、二人きりで充分ラブラブしてたみたいね? もう済ませたの?」

「なっ?!」

「まだだ」

「祥ちゃん! そんなあっさり普通に真顔で答えないでよっ」

「ここは普通に答えた方がいいんだよ。二人して黙ったらそれこそ直の思うツボだ。からかわれるに決まってる」


 あっさりと切り返された直樹は、つまらなさそうに舌打ちする。

 確かに祥多の言う通りだった。真っ赤になった二人をからかって楽しもうと目論んでいたのだ。

 当てが外れた直樹は大いに悔しがる。


「大体な、これから大学入って勉強する奴を身重にさせられるかよ」

「じゃあ何、大学卒業まで待つつもり?」

「当たり前だ」

「………。その調子で結婚式は40歳とかやめてよね」

「バカか、お前。結婚は大学卒業したらすぐだ」


 これには直樹も唖然とする。まさかそこまで、交際を始めてからの数日間の内に話し合っていたとは。

 直樹には相当な衝撃だった。恋愛に関して二人はもっと、結婚式などを後回しにするタイプのように思っていた。
< 335 / 346 >

この作品をシェア

pagetop