To.カノンを奏でる君
脱いでソファーにかけられてある上着を手に取り、ハンガーにかける。それを持って二階へ上がった。
祥多と祥花の笑う声が下から響く。奏多の声が聞こえないのは、さっきから集中して本を読んでいるからだろう。
クローゼットを開け、上着をかけて部屋を出る。
階段を下りようとした、その時。
「……っ!!」
突然襲われた胃痛に、花音はしゃがみ込む。
あまりの痛さに花音は涙目になりながら、小さくも荒く苦しそうな呼吸を繰り返す。
五分ほどそうしていると痛みは次第に和らぎ、花音はほっと息を吐いた。それから一階に戻る。
楽しそうで笑い声の絶えない、築き上げた温かで優しい家族に思わず涙ぐむ。
他の誰よりも何よりも大切な家族。その有り難さを最近よく感じる。それと共に、幸せな気持ちも。
「聞いてんのか、花音」
祥多は花音の方へ目を遣り、驚く。
「どうした? 何かあったのか?」
花音は首を横に振り、涙を拭いながら近寄った。
「幸せだなぁって思ったら涙が出ちゃった」
「花音…。お前、何か」
「何でもないよ。で、何の話?」
問い詰めても答えなさそうな花音に、祥多は諦めて話を続ける。
「……ああ。来月、沖縄に行こうって話。チビ達も夏休みだろ」
「うん、いいんじゃない? 貴方の都合がつくなら」
「来月は上旬に二回だけだからさ。よし、決まりだな」
「わーい!」
祥花が両手を上げて喜ぶ。思えば、旅行などとは縁がなかった。
祥多と花音にとっても、子ども達にとっても、初めての旅行だ。
「それ、直ちゃん達も誘わない? 独り身の早河君も」
祥多と祥花の笑う声が下から響く。奏多の声が聞こえないのは、さっきから集中して本を読んでいるからだろう。
クローゼットを開け、上着をかけて部屋を出る。
階段を下りようとした、その時。
「……っ!!」
突然襲われた胃痛に、花音はしゃがみ込む。
あまりの痛さに花音は涙目になりながら、小さくも荒く苦しそうな呼吸を繰り返す。
五分ほどそうしていると痛みは次第に和らぎ、花音はほっと息を吐いた。それから一階に戻る。
楽しそうで笑い声の絶えない、築き上げた温かで優しい家族に思わず涙ぐむ。
他の誰よりも何よりも大切な家族。その有り難さを最近よく感じる。それと共に、幸せな気持ちも。
「聞いてんのか、花音」
祥多は花音の方へ目を遣り、驚く。
「どうした? 何かあったのか?」
花音は首を横に振り、涙を拭いながら近寄った。
「幸せだなぁって思ったら涙が出ちゃった」
「花音…。お前、何か」
「何でもないよ。で、何の話?」
問い詰めても答えなさそうな花音に、祥多は諦めて話を続ける。
「……ああ。来月、沖縄に行こうって話。チビ達も夏休みだろ」
「うん、いいんじゃない? 貴方の都合がつくなら」
「来月は上旬に二回だけだからさ。よし、決まりだな」
「わーい!」
祥花が両手を上げて喜ぶ。思えば、旅行などとは縁がなかった。
祥多と花音にとっても、子ども達にとっても、初めての旅行だ。
「それ、直ちゃん達も誘わない? 独り身の早河君も」