To.カノンを奏でる君
 直樹は相変わらずオカマなカメラマン。しかし七年前に美香子と結婚し、今ではなんと7歳になる一人娘がいる。

 早河は大学卒業後、フリーの作曲家としてスタートを切り、数年前から彼の作曲した曲がヒットし始めた。


「そうだな。人数は多い方が楽しいしな。早河はいい加減彼女を作ろうって気にはなんねぇのか?」

「作曲に追われる毎日なんだって」

「まだお前に惚れてるだけなんじゃねぇの」

「かもね~。たまに不倫しよーってメールが来るし、未だに草薙って呼ぶし」

「は?! 何考えてんだ、アイツ!」

「めーいっぱい愛してあげないと、奥さん取られちゃうぞー」


 悪戯っぽく祥多をからかうと、悪戯っぽく返される。


「愛されてないんデスか、奥さん」

「ふふ。いーえ、充分愛されてますよ」


 満面の笑みを浮かべ、花音は奏多に近づき、後ろから抱き締める。すると奏多は少し嫌そうな顔をしたが、抵抗はしなかった。

 家族が嫌という訳でもなく、気づけば一人でいる事を選択している奏多を、花音はよく構う。

 一匹狼になるのは多少しょうがないにしても、一人で何もかも抱える癖だけはつけさせたくなかった。


「楽しみだねぇ、沖縄旅行」

「……ん」


 本を読みながら気の抜けた返事をする奏多に、花音は笑った。


「花音」

「んー?」

「お前、顔色悪いぞ」

「気のせいだよ。私、元気だもん」

「滅多に体調崩さないお前は病気になったら一気に落ちそうだからな。気をつけろよ。お前一人の体じゃないんだからな」

「ぅ……ん。分かってる」
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