To.カノンを奏でる君
 玄関を出たところで、花音は立ち止まる。

 門の所に幼なじみが背中を預けて凭れていた。珍しい事もあるものだと思いながら、花音は声をかける。


「直ちゃん!」


 くるりとお下げ髪の少女──いや、少年が花音を見る。


「おはよ」


 朝から爽やかな笑みを向けられ、花音は母とのせいで苛ついていた気分を晴らした。


「おはよう。どうしたの?」

「別に! ただ、たまには一緒に行こうかなって。珍しく早起きしたからね」

「そっか。じゃ、行こ?」

「ん」


 二人肩を並べて歩き出す。まだ薄暗く、静かな通りをてくてくと歩く。

 イルミネーションが至る所に見受けられるが、明かりは点いていない。


「今日の放課後、買い物するでしょ?」


 直樹は綺麗に結わえた三編みをいじりながら確認する。

 花音は直樹のそんな女々しい行動を気に止めない。


「もちろん。ケーキはちゃんといつものとこで注文してあるから、ケーキの心配なら要らないよ」

「まぁ、ノンノンは充分過ぎるほどしっかりしてるから大丈夫よね」

「それ誉め言葉ー?」

「ええ」


 あははと笑う花音を見、直樹は花音の異変に気づいた。


「ノンノン?」

「ん?」


 直樹を見上げた花音はじっと見つめられ、思わず歩みを止めた。


「ノンノン、顔色悪いわ」


(ギクぅ! 直ちゃん鋭ーい…)
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