To.カノンを奏でる君
 花音は冷や汗をかく。母が何も言わなかったので、すっかり治ったものだと思っていた。

 油断してしまっていた。まさか、まだ顔色がいつも通りに戻っていないとは。


「大丈夫だよー。今はもう元気だから」

「ノンノンが体調不良なんて、明日は大雪よ」

「そんな大袈裟な」

「それくらい珍しいって言ってんの。……勉強、無理してるんじゃない?」


 直樹に言われ、最近の学習時間を思い出す。

 真夜中まで勉強で、朝5時から6時までは早朝学習。言われてみれば確かに、多少の無理はしているかもしれないと花音は自覚する。

 今までは早朝学習もしていなかった上に、睡眠時間はたっぷりと十時間だった。


「分かった、少し生活習慣見直すよ」


 花音は真面目に答える。

 正しい生活を送っていれば、病気になる確率も格段に減るので良い。


「そうしてちょーだい。で、今日の話だけど」

「買い物リスト?」

「そう、それ。アタシが作ろうか?」

「んーん、もう作ってある」

「えっ」


 じゃーんと見せつけるようにポケットから取り出して見せる。

 見せられた直樹は悲しそうな顔をする。自分の仕事がないと悲しんでいる訳ではない。


「どうしてそんな、アタシが出来る事までやっちゃうの。少しは手を抜きなさいよ」


 直樹に非難のような心配のような言葉をかけられ、花音は苦笑するしかなかった。
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