To.カノンを奏でる君
「ごめん」

「あのね、ノンノン。やっぱり言っておくわ」

「は、はい」

「ノンノンが無理していいのはタータンが関わる事のみ」


 直樹はハッキリと言い切る。花音は素直に笑って頷いた。


「そういえば、うちのクラスに転入して来た子」

「あー、葉山さん? 綺麗な子だよね」

「気に入らないわ」

「…………」


 転入生の葉山は転入当日で既に男子から女子まで侍らせていた。リーダータイプだとすぐに分かる。

 直樹が嫌うタイプであり、花音が苦手とするタイプだった。


「あーイライラする!」

「落ち着いて、直ちゃん」


 暴れ馬を制するように花音は言う。


「あんな子と仲良くしちゃダメよ!」

「それは偏見だよ、直ちゃん」

「偏見が何よ! 私はノンノンの幸せが一番大切なの!」


 ──素直に喜べないのが、複雑なところである。


 そんなこんなしている内に、学校の校門が見えて来る。

 校門の前では、校長先生が掃除をしている。


 用務員を雇わなくなったのは、コスト削減の為。用務員がいなくなった今、用務員の仕事は校長と教頭がこなしている。


「おはようございます、校長先生」


 二人声を揃え、元気良く朝の挨拶をする。


「おはようございます、花音さんに直樹さん」


 50代半ばの校長先生は穏やかな笑みを浮かべている。そして、全校生徒の名前を覚えている立派な校長だ。
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