To.カノンを奏でる君
「これから挨拶運動ですか?」


 花音の質問に、校長は相変わらず笑みを浮かべて答える。


「そうですよ」

「いつもご苦労様です」

「ありがとう」


 校長は優しく気遣う花音に礼を述べた。そして直樹が口を開く。


「そういえば、校長先生はアタシの事、さん付けで呼びますね? みんなは君付けなのに。どうしてですか?」

「直樹君と言われるのよりは直樹さんと言われた方が嬉しいでしょう?」

「はあ……、まあ」


 直樹は見透かされたと一瞬思った。直樹は女の子としている方が楽なのだ。


「生き方はそれぞれですよ」


 そう、生き方はそれぞれだ。いくら体が男であろうと、心は女であれば女で生きるのもまた、その人の生き方。


 花音は校長の言葉に大きく賛同した。

 どう生きようと各個人の問題なのだ。その人の人生なのだから。

 大体、皆が同じ道を通るのが人間の習性だとしたら、この世の中にぶつかり合いは存在しない。

 人は皆違うからこそ、人生の面白さ、いわゆる醍醐味がある。


 そんな事を考えながら、花音は直樹とともに校門を通った。


 ──早起きは三文の得と言うが、あれは本当だ。早起きすれば朝から良い事もある。

 起床から時間が立ち、改めて清々しい朝を迎えた花音は、うーんと背筋を伸ばしてみた。そして大きく深呼吸。

 今日も一日頑張ろうと意気込み、校舎の中に入って行った。





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