To.カノンを奏でる君
「あ……あー、昨日遅くまで起きてました」

「勉強するのはいいけど、あんまり無理して私達の仕事増やさないでね」

「はーい」

「じゃ、幼なじみ水入らずで楽しんでちょーだい」


 ひらひらと手を振り、由希は出て行った。

 花音は若干視線を感じ、振り返れずにいる。


「花音」

「ハイっ!」


 祥多に呼ばれ、勢いよく振り返る。


「あんまり無理すんなって言ってるだろ」


 心配してはいるが、怒りの方が勝っていると判断した花音。


(よし、一旦避難っ)


「ちょっとトイレ!」


 祥多が口を開く前に花音は病室を飛び出した。

 勢い良く開閉される扉の痛々しい音が残り、室内は静かになった。


「……逃げやがった」


 祥多は舌打ちしながら呟く。

 直樹は苦笑しながら、コップに注いだストレートティーを飲み干す。


「朝から少し顔色が悪いのよ。気づいていたでしょう?」

「まぁな」

「言うのを待ってたの?」

「ああ」


 祥多は溜め息を吐く。

 顔色が悪い事くらいお見通しだ。毎日のように逢っているのだ。気づかない方がおかしい。


「アイツ、おばさんとうまくいってないんだろ」

「お見通しなのね。……タータンの所に通うのを許してもらってるのは、勉強を厳かにしない事が条件らしいわ」


 直樹の言葉に、祥多は胸を痛める。


 そうやって花音は独りで自分を追い込んでいる。
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