To.カノンを奏でる君
 それが悔しくてならない。

 しかし何より嫌なのは、花音に甘えている自分自身だ。


「卑怯だな、俺は。花音が無理をしていると分かっていながら、来なくていいと言えない」


 祥多は唇を噛み、顔を伏せる。

 直樹は寂しそうに眉根を下げる。


「怖いよ、誰だって。タータンは間違ってない。おかしくないよ。そう思うのが普通なの」


 直樹は立ち上がり、祥多に近寄って背中を擦る。

 丸い猫背は、まるで試合に敗れた寂しそうな選手の後ろ姿のようだ。


「いつ終わるか分からないんだもの。怖いわよね。いつか逢えなくなると思えば、怖くてそんな事言えないわよね…」


 思わず抱き締めてあげたくなった。けれど、それは直樹の役目ではない。


「悪ィな、直…。俺、お前に愚痴ばっかりだ」

「いいのよ」


 顔を上げた祥多に、直樹は元いた場所に戻った。もう大丈夫だと安心したからだ。


 やがて花音が戻って来た。今だビクビクしている花音に、祥多は笑って言う。


「時間がもったいないだろ。ほら、そろそろプレゼントの時間にしようぜ」


 ほんの少しの怒りも見せなくなった祥多に、花音は安心して笑う。


「今年は奮発したし頑張ったんだよー」


 持参した紙袋を抱き抱えて座る。


「じゃ、まずはアタシにくれるわよね」


 直樹は堂々と断言する。
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