To.カノンを奏でる君
 うんざりした表情で言う祥多。


 何でも正直に話す、それが二人の間に自然と出来たルール。そのルールがあるからこそ取り繕うとはせず、ありのままを口にする。


「それはやだ」

「ったく。中三にもなってちゃん付けで呼ばれるってな」

「いーじゃん、別に」

「良くねー」


 小学生の時、思春期を迎えて互いに距離を取った事がある。しかし、昔から一緒だった二人が距離を取る事は並大抵の事ではなく、苦痛を感じた。

 それがあり、互いを大事だと思える今だからこそ、花音と祥多は一緒にいる。


「まぁとりあえず、私は祥ちゃんに楯を渡しに来たわけですよ」


 ゴソゴソとカバンから白い箱を取り出す。

 箱の中から大きな楯を出して祥多に差し出した。


「私だけの金賞じゃないから」


 祥多は不思議そうにしながらも楯を受け取る。


 ピアノは上手いが、コンクール出場は経験なしの祥多。

 大会出場が決まると無理して練習して体調を崩す事を恐れた両親の意向からだ。

 祥多としては参加の意志があるのだが、周りがそれを許さない。


「バカ花音。気ィ遣わんくていい」

「遣ってないよ。祥ちゃんがいなかったら今の私はいないから」


 花音はにっこり微笑む。


 祥多がいなければ、花音はピアノに興味を示さずにいたかもしれない。
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