To.カノンを奏でる君
「ありがとう、祥ちゃん。大事にするね」


 相当嬉しかったのだろう。花音は泣きそうになりながらペンダントを握った。


 直樹は満足げに、にこにこしている。祥多はそんな事まで気が回らなかったので、今回ばかりは直樹に感謝した。

 女心を理解している直樹だからこそ思いつくプレゼントだ。直樹に任せたのは正解だったと祥多は思う。


「あ、もう6時になるね。祥ちゃん、ピアノ室」

「ああ」

「リクエストはねー、聖者の行進」


 そんな事を話しながら、三人は病室を後にする。


 クリスマス前で外泊している子どもが多く、今日の廊下は静かだ。

 ピアノ室の前には一人の子もいなかった。


 それはそれで寂しいような気もするが、今日は楽しいパーティーだ。たまには幼なじみ水入らずでピアノを楽しむのも良い。


 ピアノ室に入ると、祥多は花音に座るよう言った。そして聖者の行進を弾けと言う。

 花音は苦笑しながらもそのリクエストに応えた。


 優しい顔でピアノを弾く花音に、優しい顔で花音を見守る祥多。

 直樹は、すかさずその一瞬をフィルムに刻み込んだ。


(ふふ、良い写真が撮れたわ)


 現像もまだだというのに、直樹は心中で呟く。


 なかなか祥多が隙を見せてくれないので、祥多が写っている写真は少ない。だからこそ、今回撮れた写真は貴重な一枚だ。
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