To.カノンを奏でる君
第6楽章≫自惚れと嫉妬。
クリスマスが過ぎ、大晦日を越え、新年を迎えた。
花音と直樹は二人で初詣に行き朝日の出を見、祥多の病室に向かった。
花音は着物、直樹はワンピース。直樹は顔立ちが良いので、男とはあまり気づかれない。
コンコンと入室を知らせると、どうぞという返事が返って来た。
扉を開けて入ると、祥多は本に枝折を挿していた。
「おはよー。ど? 着物。可愛い?」
「……何だ、いきなり」
「あはは。明けましておめでとうございます」
「おめでとう」
花音と祥多は新年の挨拶を交す。直樹もその中に加わった。
「おめでとう、タータン!」
「げっ」
「『げっ』?!『げっ』て何!」
「何だそのヒラヒラは!」
「ワンピースよ。見て分からない?」
「バカかお前ぇぇぇ!」
「至って正気ですー」
楽しげな二人の会話に、花音は声を上げて笑った。
「祥ちゃん祥ちゃん、これで直ちゃん性別バレないんだよ」
「どー見てもおかしいだろ!」
「失礼ね!」
「どこがだ!!」
「あはは、お腹痛いぃ~」
そんな三人の様子を、由希は覗き見る。そして安心して仕事に戻る。
花音は笑っていた。祥多も直樹も笑っていた。
これから何が起こるかも知らないまま、じゃれあっていた。
皆にとって怒濤の一年の幕開けだとは知らずに──。