To.カノンを奏でる君
お正月も過ぎ、三学期が始まった。
もうじき私立高校の推薦願書の提出だ。そのせいか、花音はいろいろと追われていた。
「かはっ……」
ザーッと蛇口から水が流れて排水口に滑り込む。
とうとう吐いてしまった。
あの体の異変に気づいた日から度々吐気に襲われたが、吐く事はなかった。
それなのに吐いてしまった。吐いたと言っても、ほぼ胃液。
「はぁ、はぁ…っ」
蛇口を閉め、洗った口を拭く。
正面の鏡に写った自分の顔を見て、黙り込む。
日に日に顔色が悪くなっていく。毎日鏡と向き合っている花音自身がよく分かっていた。
祥多にも、無理するなとよく言われる。病室に行く度に心配される。
(まさか吐くなんて…。受験ストレス?)
花音は薄笑いする。いつからこんなに弱くなったのだろう。自分が情けないと、花音は自身に腹を立てる。
病気の祥多に余計な心配事を与えるなど最悪だ。祥多には心置きなく治療に専念してもらわなければ。
花音は気合いを入れて洗面所を後にした。
身支度をしてリビングに入ると、珍しく味噌汁の匂いがした。今日は久々に和風メニューのようだ。
「おはよう、花音」
「おはよう」
テーブルの自分の席に着き、手を合わせて挨拶をして箸を持った。